■Khmer Japan Tour 2016(2016年4月16日)新宿Nine Spices
僕は今回の来日ツアーは初日の新宿しか足を運べないのだけど、この日はまさかのドリンク代だけの無銭ライブ。3LAとナインスパイスの心意気を感じた。国内サポートバンドの方も金沢のThe Donorはメンバーの健康上の都合で出演キャンセルとなってしまったが、申し分無しのラインナップ!!そんな熱き物語の1ページ目を目撃させて頂いた。
・Vertraft
トップバッターはVertraftから。気づいたら5人編成になっていたが、音がより分厚くなり、ツインギターのメロディアスさがより際立つサウンドに変貌を遂げていた。演奏時間こそ短かったけど、MCも含めてライブのテンションも楽曲も兎に角熱いハードコア魂溢れる物へと進化していたのが印象深かった。
正式音源こそまだリリースされていないバンドだけど、彼らが放つネオクラストが今後どの様に更なるオリジナリティーを確立し、Vertraftだけの物へと変えていくのか、そこも含めて今後益々期待が高まるライブであり、何よりもトップからナインスパイスを熱くしてくれた。
・Gleamed
2番手はキャンセルとなったThe Donorに変わってピンチヒッターを務めたGleamed。まだまだ若手バンドだが、彼らの音楽性は非常に不思議な癖があり、パワーヴァイオレンスって言葉だけで片付けてはいけないと思った。
まだまだ粗さこそあるけど、独特な不協和音のコードとロウな疾走感の絶妙な匙加減。ここ最近国内でも大きな盛り上がりを見せるパワーヴァイオレンスだが、こうした新個体の存在は今後シーンにとって大きな存在になるのではないだろうか?Gleamedも今後大化けする可能性大と読んでいるので、これからこの変態性高めな音をより熾烈な物に仕上てくるか楽しみである。
・REDSHEER
終わりの無い表現衝動に取り憑かれたナイスミドルことREDSHEERは約二ヶ月振りのライブとなったが、この日は初披露の新曲もありと新機軸を見せるライブとなった。ここ最近のライブではトップを飾る新曲「Fall Into Oblivion」から鉄板の「Silience Will Burn」の流れは激アツ!!
1stアルバム「Eternity」のアートワークはKhmerのMarioが手がけているという事もあり、今回のライブで運命の邂逅を果たしたが、REDSHEERは日本からスパニッシュハードコアへの確かなアンサーを見せつけるというナイスミドルの気迫が特濃で体現されていく。
何よりも初披露の新曲「DistortionsContortions」はバンドが完全に新機軸へと到達し、既にREDSHEER屈指の名曲確定の必殺の一曲!!これまでの楽曲以上にクリーントーンの不穏なコード感が際立ち、同時に拍子など理解不能なカオスとしか呼べない超展開を3人の音が繰り出していく爆発力も過去最強と呼べる物。今後ライブを重ねてどう進化していくか本当に楽しみ。
最後は「濃厚な曲をやります。」と小野里氏のMCから「Yoru No Sotogawa」で締め。たった4曲のライブだったから後一曲はプレイして欲しかった所ではあるけど、たった4曲で凝縮された激アツで混迷としていながら激渋なREDSHEER節を堪能させて貰った。
・sekien
REDSHEERがナイスミドルの渋みの中からの熱さを放つライブを展開したのに対し、姫路シティのハードコア番長は最初から最後までブチ抜いた熱さで一本勝負を仕掛けるこれまた暑苦しくて最高なライブを展開。
待ちに待った1stアルバムリリース、以前からリスペクトを公言していたKhmerとの邂逅とこちらもドラマティックな要素しか無かったけど、ライブを観る度にこの人たちが持つハードコアパンクの熱気はどこに到達してしまうのかと思ってしまう。
1stアルバム収録曲を中心に現在進行形の姫路シティハードコアの「リアル」をsekienはブチかましているだけでしか無いけど、新しい音楽的要素を取り込みつつ、だけど結局はシリアスな怒りだったりといった何処を切ってもハードコアパンクの魂をぶつけてくるだけのsekienは本当に男らしいバンドだ。
弦楽器隊もガンガン前に出てフロアを煽り、ブレる事なんて決してあり得ない純粋なる初期衝動。sekienの魅力ってネオクラストだとか以上に姫路というローカルから「ローカルハードコア舐めとったらアカンぞ!!」というカチコミ感だと僕は思っている。そんなパンクスピリットがライブでこそ発揮されるからsekienは多くの支持を集めているのだ。
今回のKhmer来日ツアーのファイナルはsekienのホームである姫路にてKhmerとの時間無制限ガチンコ2マンライブ!!スペインと日本のモノホンがバチバチと殺り合う伝説の夜になるだろう。関西圏の方は是非目撃して欲しい!!
・Khmer
そして主役のKhmerへ。果たしてスパニッシュネオクラストから始まったブラッケンドクラストとは、そしてその本当の実力は如何程の物なのか。いよいよKhmerの正体が明らかになるのだけど、みんなの想像を裏切る熱きハードコアしかKhmerには無かった。
ボーカルのMarioはREDSHEERのTシャツを着ていた時点で個人的には凄く嬉しくなってしまったのだけど、音源で鳴らすシリアスな怒りに満ちた音は全く別の形でライブではアウトプットされていたと思う。別にライブで音源とやっている事が違う訳では無いし、演奏自体は本当に荒々しさ全開ではあるけど、どこまでもストレートで直情的な音をKhmerはぶつけて来ただけだった。
序盤こそはツアー初日という事もあって演奏が乗り切れてない感じだったけど、ギアが入ったら本当に早かった!!Marioはガンガン前に出て叫ぶ叫ぶ!!だけど怒りに満ちたシリアスなメッセージを放っているのに、Marioは終始笑顔だ。
ドラムがハードコアのツボを押さえまくったニクいプレイを連発しバンドのテンションを底上げすればする程に他のメンバーのテンションも高まっていくという最高の循環。Ivanのギタープレイはやっぱり泣きに泣きまくり、SNSで一部から写真集を出してくれなんて意見もあったりしたスパニッシュハードコアの姫ことオアイオちゃん(前髪パッツンで刺青だらけでボブカットと男心くすぐるキュートな美少女でした)のベースプレイはそのルックスに反してズ太いベースを弾き倒す。
何よりもMarioが本当に楽しそうにライブする物だから、ここに来てフロアの熱気は大爆発!!モッシュにダイバーとカオスを極め、Marioは曲間に最前の客と拳を握り交わしたりと熱い漢っぷりを見せる。
そんなテンションでKhmerの切れ味だらけのキラーチューンを繰り出すのだから30分の演奏時間はあっという間に終了。直様アンコールの一曲をプレイして終了と思いきやフロアからは「まだ出来る!!」との声が上がりまくる。
そんな流れで行われたダブルアンコールはLivstidとのスプリットに収録されている10分に及ぶハードコア交響曲「Himno a las llamas」長尺曲でありながらフロアはこの日一番の熱気へと雪崩込み、10分に渡るクラシカルかつハードコアな名曲すら一瞬で駆け抜けてしまうKhmerのバンドとしての凄さを発揮。
こうして40分に及ぶ熱演は終了。もうKhmerにはネオクラストとかスパニッシュハードコアとかブラッケンドクラストなんて必要無かった。ただ最高のハードコアパンクだった。
無銭イベントというのもあったかもしれないが、集客的にも大成功で終演後はKhmerの物販を買い求める人が多数とツアー初日から大成功のライブだったと言える。
これを書いている時点では横浜公演と残りの東京公演は終了し、愛知・大阪・姫路の三公演を残すのみとなったが、果たしてKhmerのライブは東海と関西の人々にどんな衝撃を与えるのだろうか、愛知・関西の猛者と激突し、最後の姫路でのsekienとの最終決戦ではどんなカタルシスが生まれるのだろうか。全てがドラマティックさに彩られるのは間違い無いだろうが、このドラマには脚本なんて存在しない。全てがリアルなドキュメントであり、それこそがハードコアパンクの真髄だと言える。
結末なんて分からないからこそリアルがそこにある。だけどこの日のナインスパイスのツアー初日は間違いなく伝説の1ページとして刻みつけられた筈だ。