■Oppression Freedom Vol.13 -MoE&Birushanah Japan Tour 2016-(2016年5月6日)@東高円寺二万電圧
ツアー初日にその実力を確信したMoEは勿論、絶好調なCoffinsをはじめとする国内バンドのライブも含めて本当に楽しみな夜だった。
・ZOTHIQUE
いきなりZOTHIQUEからスタートで絶倒だ。ZOTHIQUEはライブ自体は三ヶ月振りではあったが、この日はサポートギタリストを迎えての5人編成でのライブ。
そして序盤からいきなり金星行きの轟音トランス「Venus」で二万電圧を宇宙に変える。しかしながらギターが一本増えた事により音の幅と音圧が本当に広がっており、これまでのZOTHIQUE以上に宇宙的サウンドスケープに磨きがかかっていた。Darklaw氏のキーボードと二本のギターが生み出す美轟音世界は最早ドゥームの括りで語れない高揚感に満ち溢れ、意識を彼方へとぶっ飛ばしてくれる。
その一方でドロッドロッのマグマの様な激烈ドゥーム「Amoy」を続いて繰り出してくる落差にも驚かされる。金星まで到達してしまったかと思えば大気圧と表面温度によって溶かされてしまうのだからタチが悪い。
ZOTHIQUE流の正統派ドゥームの異常解釈「Faith, Hope And Charity」を挟み、最後は最早ZOTHIQUEのライブに必要不可欠な存在となっているKumiさんをゲストボーカルに迎えての「Sunless」。6人編成で最後の最後に破壊的な声と爆音とノイズの交響曲で締めくくりだ。金星に到達したと思ったら高熱で溶かされて最後は太陽を無くすという現在のZOTHIQUEの集大成的ライブになったのではないだろうか?しかしこのバンドは果たして何処に行ってしまうか本当に分からない。でもそれこそがZOTHIQUEらしさだと僕は思う。
・THE DEAD PAN SPEAKERS
久々にライブを拝見させて頂いたデッパンはZOTHIQUEとは全く違う宇宙を生み出すライブを展開。サイケデリックやクラウトロックやトライヴァル等とリンクしながらも、結局は最高のダンスミュージックを奏でてフロアを狂騒の渦に巻き込んでいく。
こうした激音イベントの中でデッパンは清涼剤的な立ち位置になっていたりもするのだけど、単なる清涼剤は終わってくれないのがデッパンの魅力だろう。人力ダンスサウンドによりグルーブの太さと、トランスするサウンドによる高揚感。その両方で彼らは踊らせてくれる。
40分に及ぶライブも本当に一瞬。決して常に高揚させるのでは無く、クールダウンさせる展開を盛り込みながらも、最終的にはハードコアな精神が生み出す音の攻撃性と可能性によるマジックなのだろう。
決してサウンド自体は古臭くないのに、古き良きロック魂溢れる熱いライブを展開。クールネスの中に見え隠れする熱情のレベルミュージックの真髄がそこにある。
・MoE
ここでノルウェーからの刺客MoEのアクトへ。ブッシュバッシュでその強烈なジャンクロックサウンドにノックアウトされたが、ライブを観るのが二度目となったこの日はツアーを重ねた事もあり、かなりの仕上がり具合のライブ。二万電圧の音響とも相性は最高で、MoEの持つ硬質なジャンクロックがよりハイファイかつ高次元にアップデート。
スラッジ要素から2ビートハードコアまでとそのカードは本当に多いバンドではあるが、一貫しているのはどこまでもヒステリックであるという事。女性ベースボーカルのテンションの高さもあるが、バンド全体の演奏の熱量が異様に高く、だけど熱血的サウンドでは無く、殺気とヘイトに溢れている。
怨念と屈強なマッチョイズムの両方を持ち、毒々しさ全開で通り魔的に刺し殺す音は刺し違えてもお構いなし。兎に角尖り尽くした上に重い。そんな音を40分近くも浴びていたが、逆に強烈な爽快感すら覚えてしまった。
ドロドロとした毒も飲み込んでしまえば快楽。得体の知れなさから最終的にはMoEの激音を体内に植え込む。今回のライブも大きな盛り上がりを見せ、この日本でもMoE中毒者は増えたであろう。ノルウェー大使館もイチオシなMoE、是非ともまた日本に来てくれ!!
・Birushanah
大阪の大妖怪Birushanahも圧倒的なライブだった。のっけから佐野氏がメタルパーカッションの鉄板の上に乗っかって客を煽った時点でフロアのテンションはかなり昂ぶっていた。
メタルパーカッションの破裂音がドラムとシンクロし、ISO氏のギターがヘビィながらも和音階の旋律を奏でる事による祭囃子の様な狂騒。この日プレイしていた曲はダンサブルさだけで無く、ここ最近の歌心溢れるBirushanahもしっかりアピール。出している音は全て破壊音な筈なのだが不思議とそうした印象は無く、一体感溢れるアンサンブルだからこそ聴かせるBirushanahも躍らせるBirushanahの両方をアピール出来ている。
Birushanahも40分近いセットだったにも関わらず中だるみとは一切無縁なタイトさを展開。その中でISO氏のボーカルがかなり映えていた。それとMCも絶好調で、佐野氏は「ブリザードの国からMoEとツアー回ってますがー!!」なんてやたらブリザードを押していたのは笑った。
ラストは14分に及ぶ大曲「鏡」で締めくくり。ドラムとメタルパーカッションの打音の流線型が緩やかに形を作りながら、最後はそれを粉々に打ち砕くアンサンブルでフィニッシュ!!佐野氏のフロアに降りての銅鑼滅多打ちのお家芸も飛び出し歓喜の渦に巻き込んだ。大阪の大妖怪バンドはやはり違うのだ。
・Coffins
しかしこの日はトリのCoffinsが全て持っていったと過言では無いだろう。最初にベースのAtake氏が各出演バンドに対して「ヤバかったよね!?」って賛辞を送り、今回は二万電圧の音止めの時間の関係で一曲しかプレイ出来ない事を伝える。
他の出演バンドに加えて明らかに演奏時間が短いという事態になってはしまったが、だからこそ生み出されたグルーブがこの日のCoffinsには間違いなくあった。プレイされたのは彼らの代表曲であり大アンセム「Evil Infection」!!デスメタルからドゥームからロックまで飲み込んだCoffinsにしか生み出せなかった名曲だが、この日の「Evil Infection」は普段のライブよりも激走と爆裂と重さの坩堝からメンバー全員の熱気と気迫がとんでもない事になっていた。
フロアの盛り上がりも異様なまでにヒートアップし、たった1曲しかプレイ出来なくてもCoffinsには関係無いのである。いやだからこそフロアと異常な化学反応が生まれたとも言えるだろう。
これでライブが終わりかと思ったがフロアから「まだHellbringerなら出来る!!」という声が上がり、急遽もう一曲追加で
こちらもCoffinsの大アンセム「Hellbringer」をプレイ。いつも通りの重戦車サウンドでありながら、いつも以上に爆走感溢れる音で更にフロアは盛り上がり、たった10分弱全2曲という非常に短いセットでありながら、必殺のアンセム2曲だけで全てをかっさらった。
現体制Coffinsの絶好調っぷりはライブを観ていて分かっていたが、このたった2曲で全てを持っていけるCoffinsというバンドは本当に凄まじいバンドなのだ。もう本当に心臓が爆発しそうな位に良いライブだった!!
東京・大阪・ノルウェーとそれぞれの地域や国から最高のバンド5バンドが集結し、エクストリームな夜はこうして幕を閉じた。全バンドが主役張れるだけの凄まじいライブを展開しており、その最後の最後に立っていた奴が真の勝者という感じだったが、この日は逆境を跳ね返す底力を発揮したCoffinsが真の勝者となった。
勿論、他の4バンドのライブも素晴らしく、この組み合わせでこんな全部メインディッシュなライブなんてまず無いよなあって思った。平日にも関わらず二万電圧は大盛況だったと思うし、このイベントは完全に大成功であり伝説の夜って事で良いよね。