■弱蝕論/sewi

結成14年にして初の1stフルアルバム!!京都を拠点に活動し、音楽性を変えながらも唯一無二の存在としてシーンの中で絶大なる評価を集めてきたsewiの誰もが待ち望んでいた1stアルバム。リリースは前作EP同様に三島が世界の誇るfurther platonicsからのリリースとなっている。
ツインベース&ツインドラムの6ピースという異質な編成や激情ハードコアから始まりながらもエモやポストロックやジャズやファンク等を取り入れ、スポークンワードによる河野氏のボーカルスタイル等が現在のsewiを語る上で取り上げられるが、実はそこはそんなに重要な所では無いと僕は思う。勿論ツインドラムとツインベースの複雑で重厚なアンサンブルは今作の一つの肝になっているが、曲自体は非常のストレートな印象を受ける。
そして河野氏が乗せる言葉は日々の生活や痛みや苦悩といった一見するとネガティブ極まりない個人的感情をひたすらに綴り続けてる。だけど河野氏の言葉を個人的な鬱的感情の羅列とは僕は到底に思えない。第2曲「シキ」のラインにある「手垢で汚れた私小説が書きたい」といった言葉は今作に現れている。
何よりも先ずはトラックのセンスが良すぎる。第2曲「シキ」はジャジーなピアノのフレーズとドープなグルーブが耳に残るけど、そこに乗るギターフレーズは直情的であり、一見クールで冷笑的だと思わせておいて、静かに燃え上がる熱が聴き手の心を突き刺していくだろう。
私小説的リリックが複雑で独特のコード進行と共に足早に綴られていく第3曲「最後の晩餐」、今作の中で最もストレートでダイナミックな音と共に諦めと怒りが混在する感情の中で新たな決意表明を記した第5曲「灰の雫」、メロディが物悲しさと郷愁といった失われてしまったイノセンスの美しさに恋焦がれそうになる第6曲「dawn」、語りかける様にストーリーが進んでいくラブソング「夏越しの月」、泣きに泣いたギターフレーズともう二度と戻れないからこその覚悟を歌った第9曲「goodby」、盤の帯にも書かれている「そして、俺は唯一無二となった」という今作を象徴するフレーズで締めくくられる最終曲「贋世捨人」まで生温い表現は今作には何一つも無い。
作りこまれたトラックは冷静さとネガティブさがより加速する音になっていながら、ここぞとばかりに叫びだすギターが前向きだとか後ろ向きだとかという感覚を超えた諦めきれない感情を吐き出す。歌詞カードをじっくり眺めながら今作を聴いているとその言葉の痛々しさが突き刺さるが、約30分の今作を聴き終えた時に感じるのは一つの達成感だったり、自分の中の毒が解毒された様な開放感だったりもする。何よりも歪であるからこそ河野氏が何度も綴る「覚悟」を表明した言葉には不思議と勇気づけられたりもするのだ。
安易なカテゴライズも出来ない。河野氏が綴る言葉は簡単には理解した気にはさせてくれない。寧ろ聴いていると辛くなってしまう人もいるかもしれない。だけどsewiの音楽は集団意識や多数派の無自覚の暴力、感受性を押し殺してしまっている事実、それらに対して容赦無くカウンターを打ち込んでくる。今作にあるのは音楽や人々に対する不器用な愛、マイノリティの中でも生き続けるといった覚悟なのだから。
飲み込んでも消化しきれずに残り続ける音と言葉、確かな毒ではあるが同時に確かな薬にもなり得る音楽。痛みと琴線に触れるからこそ本当の意味で優しい言葉。もし今作を聴いて例え不快感とかいった感情だとしても何かを感じる事が出来たら、この「弱蝕論」というアルバムは貴方にとって確かな一枚となるだろう。