■深層/ANCHOR(新潟)

99年に結成され、今年で結成17年を迎える新潟の激情ハードコアバンドANCHOR(他にも同名のバンドがいるけど、ここでは新潟のANCHORです。)の17年の歳月を経てリリースされた1stアルバム。
その長い活動歴に関わらず、これまでに残した音源は一枚のEPとSTUBBORN FATHERとのスプリットとオムニバス参加のみでその知名度は決してあるとは言えない。だが、長い沈黙を破りリリースされた今作はANCHORを一気に全国区へと持っていくであろう屈指の名盤となった。
サウンドスタイルはFuneral Dinnerといった未だ色褪せない激情ハードコアの先人の影響下にあるが、それを基盤にはしながらも既存の激情ハードコアの枠に全く当てはまらないサウンドを鳴らす。ANCHORのサウンドを語る上で外せないのは一瞬ギターの音だとは信じられなくなる硬質なアルペジオの旋律だろう。このパキッとしたチェンバロ的ギターは作品の全編に渡って登場し、そのアルペジオが楽曲を組立ながら、もう一本の空間系シューゲイジングギターがそのメロディを見事に際立たせている。
そんな特徴的なサウンドではあるが、それ以前にバンドのメロディセンスが屈指の物だ。新潟という雪国の空気や情景を想起させ、日本海の空っ風を受けた荒涼とした寒々しさ。ブラックメタル的な寒々しさでは無く、叙情的でオーガニックで時にオリエンタルな空気感さえ感じてしまうコード感は他のバンドには無いオリジナリティの塊だ。
そして激情ハードコアにカテゴライズされるであろう彼らだが、実を言うと核の部分以外は激情系の要素はほぼ無いとも言える。分かりやすいディストーションサウンドはほぼ皆無、寧ろポストロックやゴシックやワールドミュージックの要素すらあると思う。でもそれらの音楽的要素を持ちながら難解さは全く無い。日常生活の心象を切り取った様な歌詞もそうだけど、全体の音象は非常にストレートな印象に仕上がっている。
楽曲のテンポはミドルテンポ主体ではあるが、その中で確かなハードコア的速さを感じさせるビートとグルーブの魔法、そして二本の美しいギターが描くモノクロームの世界観。細部まで繊細極まりない音が写し出す儚き蒼。灰色の世界から徐々に色が染まっていくストーリー性。ここまで徹底してきめ細やかな風景を生み出すバンドは他にいないだろう。それは今作で最もストレートにハードコアを鳴らす第7曲「抵抗」にも現れている。
決して派手な作品では無い。分かりやすいディストーションも無い。ベクトルとしてはかなり渋い作品ではあるが、しなやかなサウンドフォルムと新潟の雪国の空気感が聴き手の体温を下げていくと思わせて徐々に上げていく。
本当に鋭い音にはディストーションギターすら必要としない事をANCHORは証明している。繊細さを極めに極めた末に生まれたこの鋭利さは、触れたら壊れそうな氷細工の様に美しく、だが聴き手の胸を刺し抜く刃物でもある。
これは新潟からの新たなる犯行声明文だ。この音には閉塞した日常を切り裂く強さしかない。
■コメント
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主さんにとっての激情系必聴盤って何枚あります?
思い付く作品て何ですか?
参考にしたいんですが
■Re:深層/ANCHOR(新潟) [AKSK]
僕個人としては
Anasarca
Trainwreck
SAETIA
YAGE
ANODE
Gantz
THE THIRD MEMORY
辺は特にマストだと思ってます。