■BALLOONS 20th Anniversary & Last Tour(2016年9月4日)@代官山UNIT
今年に入り最後のツアーを行ってきたが、この日の代官山UNITでBALLOONSはその活動を終えた。最後の最後のライブはheaven in her arms、LITE、MIRROR、killieと共にシーンで切磋琢磨し戦ってきた盟友4バンドを迎えてのライブ。イベントはソールドアウトを記録し、UNITのキャパを明らかに超える人数を動員し、冗談抜きで伝説の夜となった。
僕自身も早めにUNITに向かったが、代官山には兄貴の最後の勇姿を目に焼き付けるべく集まったフリークスが長蛇の列を作っており、僕もなんとかHIHAが始まるギリギリの所でUNITへの潜入に成功。
一つの歴史の終わりを迎えたこの日、世界中のエモを全て集めたかの様な瞬間が何度もあった。僕はこの一夜に参加できた事を誇りに思いながら、色々と整理が付いた今こそ2016年9月4日の記憶をここに記す。
・heaven in her arms
HIHA名物のアンプの山を隠す形でロゴが記された二つの巨大バックドロップが飾られた異様なステージの光景。トップのHIHAからこの日はハイライトを迎えたと言える。
普段はMCを殆どしないHIHAだが、この日ばかりはkent氏が何度も兄貴へのリスペクトを言葉にし、そして兄貴達からは進化し続ける事を学んだ事、それを体現するライブを行うという旨を口にし、その言葉通り最新のHIHAを見せるライブを展開した。
もうリリースこそ3年前だが「終焉の眩しさ」からライブは始まり、新曲2曲を含めた最新のHIHAをダイレクトに体現するライブで攻める。バンドの持つ世界観をより色濃く反映させながら、これまで闇といったワードで語られる事の多かったHIHAを更新し、光を感じさせる音像をハードコアだけでなくブラッケンドやメタルを新たな解釈で盛り込んだ新曲はこの日初めて聴く人も多かった筈だが、フロアからはより四次元的なサウンドを展開するまでになったHIHAに酔いしれる人が多かった筈。
全4曲のセットだったが、ラストはHIHAの看板曲の一つである「赤い夢」で締め括り。かつてはライブのラストにプレイされる事の多かったドラマティックな名曲は兄貴達の最後の一日だからこそより大きな感動と煌きの瞬間をもたらし、頭から涙腺が緩みそうになるエモが炸裂した。
HIHAは12/23に同じく代官山UNITで自主企画を敢行するという大勝負に出る。BALLOONSの常に挑戦し続けるという意志を受け継いだHIHAはこれからも新たな景色を僕たちに見せてくれるだろう。
・LITE
二番手のLITEもMCで何度もBALLOONSへのリスペクトを口にし、兄貴達がいてこそ自分たちがある事を口にしていた。
BALLOONSのインスト曲「9:40pm」をカバーするというサプライズを用意しながらも、ライブ自体はあくまでもいつも通りのLITEで攻める。代表曲「Ef」から始まり、言葉こそ無いが、バチバチと火花を散らすスリリングなインストが迫るライブ。BALLOONSの影響を受けながらも、それを模倣せずに自らのサウンドを確立したLITEもまた兄貴達の挑戦し続ける意志を受け継いだバンドであるのだなって妙に感慨深い気持ちに。
あくまでもいつも通りのライブではあったが、どこかいつも以上に演奏に熱が篭っている様にも感じ、その一瞬の音のぶつかり合いの瞬間すら彼らは楽しんでいた様にも思えた。
BALLOONSという国内ポストロックの先駆けが生み出したLITEというバンドも今やシーンを代表するバンドへと進化を遂げた。言葉を用いない彼らの音はより素直なエモを一瞬の音に全力で投じていた。一瞬で駆け巡るライブではあったが、その一瞬が生み出す高揚感と熱さにフロアからは何度も熱い歓声が起こり、みんな全力でLITEの兄貴達へのアンサーを全身で受け止めていたのだ。
・MIRROR
転換中に物販を見てフロアに戻ったらあまりの人の多さにフロアの大分後ろの方でライブを観る事になったが、MIRRORはLITEとはまた違うエモをMIRRORの流儀のまま描いたライブを展開。
LITE同様に言葉を用いないインスト音楽であるが、LITEが一瞬のぶつかり合いに命を懸けたライブをしていたのに対し、MIRRORはその音の全てでBALLOONSへのリスペクトを歌い上げる様なライブをしていた。
元々歌なんか無くても楽器の音全てが歌声を上げるポジティブでハイボルテージなエネルギーを持つライブをするMIRRORだが、この日はそんなMIRRORの持ち味が感情の決壊とも言える情報量で押し寄せる演奏を見せてくれていた。決して常軌を逸した爆発を描くバンドでは無いし、MIRRORの音は日常や人間の平熱といった自然体な熱をそのまま自然体で繰り出し、不思議と観る人を笑顔に変える物であるけど、言葉にならない熱をただ全力で描き出していたMIRRORの正直な音は多くの人の胸を打ち抜く物であったし、この伝説的なライブを前の方で観る事が出来なかったのは今でも大分悔やんでいる。
まるでBALLOONSという物語に対し花束を添える様な美しく感動的なライブ、MCでの何の飾りっけも無い「ありがとうございました」の言葉。それが全てを語っていた。
・killie
それぞれのバンドが自らのキャリアの中で最高を記録するであろう神アクトを展開する中、BALLOONSと共に歩んできたkillieも例外無くキャリア屈指のライブを見せてくれた事はこの記憶を記した記事を読んで下さっている皆さんは簡単に想像出来るだろう。
頭からアンセム「先入観を考える」、そして「キリストは復活する」とこの日のkillieはただでさえライブを事件にしてしまうkillieというバンドの本領だけを発揮した物となった。
「先入観を考える」が始まった瞬間から異様なテンションでモッシュがそこら中で発生するフロア、バンドのテンションも序盤からギアの限界を超えた物となり、バンドとフロアの熱量の化学反応が常軌を逸した音と共に目まぐるしく展開されていく情景。決して狭くないUNITというハコの中は致死量の熱さで包み込まれ、ボーカルの伊藤氏は最初にMCで「BALLOONSの墓を埋めに来ました。」なんてらしい事を言っていたけど、告別式にしては幾ら何でも盛り上がり過ぎだし、僕自身もモッシュに巻き込まれて揉みくちゃになりながら、言葉にする事の出来ない興奮に襲われていたよ。
最後は「エコロジーを壊せ!」で幕を閉じたが、曲の途中で伊藤氏が照明の蛍光灯を一つずつ消していき、真っ暗になったステージ、フロアからは異様な緊張感、そして蛍光灯では無くUNITの照明が一気に点火した瞬間にはkillieの楽器隊がBALLOONSと入れ替わっているというサプライズ!!そして伊藤氏と吉武氏のツインピンボーカルで演奏されるクライマックス!!この瞬間は正にロックバンドkillieだからこそ生み出せた物であり、その場にいた人間全員の想いが爆発したからこそ生まれた光景だろう。
主役のBALLOONS以上にクライマックスで盛大に墓を準備したkillie。常にあらゆる有象無象と闘い続けたバンドが兄貴達に手向けた瞬間のドキュメント。この光景は一生忘れないだろう。
・BALLOONS
4つのバンドが4つの忘れられないエモを生み出した中、主役のBALLOONSの最後のライブはどんなドラマが生まれるのかと僕は色々と思いを馳せながら考えつつBALLONSの最後の瞬間を待っていたが、結論から言うと安易な感傷なんかに全く浸らせてくれない、BALLOONSはあくまでBALLOONSのまま全てを終えただけに過ぎなかった。
「Intensity」からライブは始まり、新旧問わず20年の間で生み出された来た名曲達が淡々と出番を終えていく。MCもそれぞれのメンバーがしたりもしていたが、あくまでも感傷では無く、等身大の自分たちのままでその言葉を綴っていたのも印象的であった。
圧倒的演奏力と全く隙の無い構築美によるBALLOONS節としか言えない数多くの楽曲。その一つ一つは安易にエモい気持ちにはさせてくれず、静かにそれぞれの楽曲と向き合わせるストイック極まりない演奏。BALLOONSは他のどのバンドよりもストイックの自分たちの居場所を作り続けて来た。そんな事がただ表れたライブであり、何処かで孤独を抱えている様な気持ちになってしまった。
だけどあくまでも孤高の存在であり続けたBALLOONSのラストライブを特別な物へと変えたのは、きっとそれまでに出演した4バンドもそうだし、この日来ていた650人を超える客もそうだし、それぞれの立場や形でBALLOONSというバンドに憧れを抱いてきた人々が生み出す熱量だったのだと今では理解できる。
完璧主義を最後まで貫き通した一時間以上にも及ぶ熱演、アンコールの時のフロアから配られた風船が数多く掲げられる光景にすら「風紀を乱すな」なんて言えてしまうどこかツンデレめいたスタンスすらBALLOONSなりの愛なのだろう。
僕自身はBALLOONSというバンドを決して昔から知っていた訳では無いし、バンドのこれまでの歴史なんかは僕よりもずっと記憶している人の方が多いと思う。だけどBALLOONSが作り上げて来た物は音楽だけでなく、一つのリアルなシーンとして確かに受け継がれた来た。それは世代や立場とかを超えて「みんなで作り上げた物」として今でも残り続けている。
ライブレポ的な部分から大分脱線はしてしまったが、この日のライブはBALLOONSが妥協なき姿勢をブレずに貫いたからこそ生み出せた集大成だったという事だったのだろう。ベタな言葉ではあるが有終の美という言葉が一番相応しいライブとなった。
最後の最後まで決してデレてくれた訳では無いけど、そのオリジナリティとストイックさをただ淡々と描き続けたラストライブだからこそ、また特別な磁場があの場所にはあった。
こうしてBALLOONS最後の夜から色々思っていた事を自分なりに整理してやっとこの駄文を記すまでに至れたのだけど、この日は今でも不思議と終わりの日という気持ちにはなっていない。
それはBALLOONSというバンドは終わってしまっても、兄貴達が残し続けた名曲と行動は今でも僕たちの身近な世界で確かに呼吸を続けているからだろう。
一つの区切りではあったのかもしれないが、決して終わりの日では無かった。BALLOONSが残した多くの財産はこれからも様々な形で受け継がれて続いていく。その事実だけあればいい。それでいいし、それがいい。
「BALLOONS、20年間お疲れ様でした。」ただこの一言しか僕が言うことは無い。全てはこれからも続いていくのだから。