■様々な死覚(2016年10月1日)@国分寺Morgana
ANCHOR自体が東京でのライブは実に7年振り、weeprayも2016年最初で最後のライブと事件性が非常に高い夜となり、全8バンドの強烈なバンドがそれぞれの個性をぶつけ合う前代未聞の一夜。TRIKORONAとweeprayという異端の存在2バンドの共同企画に相応しい絶倒の夜となった。
・TRIKORONA
主催の片割れのTRIKORONAからライブはスタート。休むこと無く多くのライブをこなし続けるこのバンドは、パワーヴァイオレンスの文脈からも激情ハードコアの文脈からも外れに外れた末に様々な困惑を言葉と音で吐き出し続けるバンドだが、この日も絶好調のライブを展開。
ノイズ塗れのギターとテルミンの音でノイズの相乗でゴテゴテのケミカルな音で塗り潰し、自由翻弄なベースと爆走グラインドなドラムによる速さの不条理、化物な声量で吐き捨てる言葉の数々、瞬発力で押し切るだけで無く、シャトルランを終わりなく全力疾走する持久力もあり、曲を重ねる事にそのパワフルさが増していくのは単純に凄い。
今後リリースされるだろう新曲群はそんな不条理な音にTRIKORONA節とも言える独自のキャッチーなフレーズが際立ち、妖怪の手が気が付けば観る者を握り潰す理不尽で幸福な暴力を生み出す。このバンドは暴力に更なる狂気と不可解さで人々を追い詰める事が出来るという最大の強みがある。だからこそ異端児であり続ける事が出来るのだろう
20分間の悪夢と暴力、この日もTRIKORONAは見事に振り切れていた!!
・sto cosi cosi
ハッピーエモヴァイオレンスことストコジはダーク極まりないこの一夜の中でも異彩を放つ存在感。音自体は正統派なえもヴァイオレンスを鳴らすバンドではあるが、単にありがちなエモヴァイオレンスにならないのはボーカルのシロウ氏の存在感あってこそだろう。
一瞬一瞬に全力を託すパフォーマンスだけで無く、合間合間のMCで妙にパリピ感を出してくるというギャップ。音源でも十分格好良いバンドではあるが、ストコジの魅力はライブの場で不思議と生まれる多幸感その物にあるだろう。
パーティになんか絶対に相応しく無いだろう音を鳴らしているけど、その不自然さが自然とパーティを彩るサウンドとしてアウトプットされいるのはストコジの不思議な魅力の一つだろう。
終盤はギターの人がギターをブン投げてストラップが壊れて座り込んで全力でギターをかき鳴らしたのも含めて、全力のテンションが楽しさへと繋がる。そんな魅力を堪能させて貰った。
・NoLA
当たり前の様に毎回毎回常に最高を更新するライブしか繰り広げないNoLAはこの日も絶好調の極みを展開。いつもと違ったのはKeyakiが下手でmakinoが上手とギター隊二人のステージでの立ち位置が違った位ではあったが、一点の曇りも無くフロアを皆殺しにする事しか考えてないであろう狂気の若武者はいつも通りの爆音で殺るだけに過ぎない。
ここ最近は新曲もセットに多く組み込まれており、バンド自体がベーシストYutoを迎えてから円熟の季節を迎えているのだろうけど、それもあってか今のNoLAは音の狂気や破壊力、各メンバーのポテンシャルの更なる成長と比例するかの様に不思議と幸福感すら観ていると覚えるライブをしている。
音自体にはハッピーの欠片すら無いけど、圧倒的な物をリアルで目の当たりにした時は恐怖すら超えたアッパーさすら生まれる事をNoLAは毎回提示し続ける。それはいつも楽しそうに全力でライブをしているメンバーの空気からも伝わって来る物であり、まだまだ20代前半のバンドではあるが、既にベテランバンドが迎えるであろう幸福なる成熟を感じさせるまでになった。
その一方でバンドの成長はより邪悪な音へとアウトプットされているのもNoLAならではだ。この日は20分程度とライブ自体は短かったが、そんな事はお構いなしにいつも通り最高のテンションのNoLAを爆散させだけに過ぎない。
・Kowloon Ghost Syndicate
歴戦の猛者が続ける新たなる挑戦としてのハードコアことKowloon Ghost Syndicate。この日は多方面からシーンに貢献してきた猛者のバンドも数多く参戦したイベントであったが、Kowloonが一番王道な形でハードコアという物に挑んでいた印象を受けたのは事実だ。
笠沼氏が何度もフロアを煽る様なMCをしていたのも印象深かったが、激情ハードコアやメタリックハードコアといった文脈が色濃く出たサウンドはメンバーそれぞれのキャリアがあってこその説得力があったが、そこに固執せずに、常にファイトバックな精神のまま闘い続けるという意志こそKowloonが提示するハードコアパンクのリアルだと僕は勝手ながら受け取らせて頂いた。
メンバーそれぞれがボーカルを取るというスタイルで矢継ぎ早に叫ばれるエナジー、焦らしなんか全く無い沸点をとうの昔に超えてしまったハイボルテージな演奏。余計な仕掛けなんか用意していないけど、だからこそ真っ直ぐに射抜くハードコアを彼らは鳴らせるのだろう。
ダークさもある音ではあるが、ライブが終わった後の異常な爽快感。モヤモヤしてるんだったら爆発させちまえっていうアグレッシブさ。ナイスミドル達の挑戦はまだまだ続く!!
・Fredelica
後半戦は西荻窪激情ハードコアFredelicaからスタート。葛藤や苦悩といったテーマをありったけのままで叫びストレートに打ち鳴らす彼らだが、不協和音や変則的な展開では無く、真っ直ぐなメロディアスさと感情爆発のライブで正々堂々と勝負をしていた印象がかなり強い。
以前ライブを観たのが2年も前でかなり久々にライブを観た感じにはなってしまったが、昨年にリリースしたEP「街灯」を経て、バンドの底力が確かにビルドアップしており、頼もしさも感じられるまでに成長しただろう。
モヤモヤとした葛藤を鳴らすからこそのスリリングさ。余計な事を何もしない。足さないし引かないから純粋なままFredelicaは自らの衝動をひたむきなまでにぶつけてくる。
何かを求めて縋る様な必死さも含めてFredelicaは僕らの心情と確かにリンクするバンドなんだ。
・No Value
今回唯一ライブを観るのが初めてだったNo Value。予備知識全く無しで観たのも大きいのかもしれないけど、速い!!うるさい!!短い!!といった大正義を掲げるファストグラインドサウンドに脱帽。
一曲一曲が短い上に矢継ぎ早で繰り出される高揚感!!MCですら「特に話すことって無いや。」と言い捨てて終わりという潔さ、そこらも含めて圧縮された情報量をエクストリームな速さと五月蝿さで殺りに来るのだからテンションが上がらない訳がない!!実際にこの日の出演バンドの中でもフロアが一番盛り上がっていたのもこのNo Valueだったのも納得だ。
全激音が擦り切れてもお構いなしで暴走を続けたライブは15分もしないで終了。正直もっとライブをやって欲しかった気持ちもあったが、それを抜きにしても絶頂感の余韻は堪らない物があったのである。
・weepray
主催のもう一片割れのweepray。今年はライブ活動が殆ど無く、この日のライブが今年最初で最後のライブとなり、下手ギターの小室氏が都合で不参加となり4人編成のライブとなったが、全3曲に渡って繰り広げられたweeprayという惨劇に何一つブレは存在していなかった。
頭から「彼岸花」で攻める攻撃的なモードでライブは始まったが、ドス黒いギターフレーズと通り魔の様に刺すドラムが軸となりながら、ベースの阿武氏とボーカルの笠原氏の二人が描く耽美で黒い世界に酔いしれさせる。
ステージから放たれる全ての音に込められた殺気が凄まじく、それだけで無くメンバーそれぞれの一挙一動にも目が奪われる。特に彼岸花のラストの阿武氏が口をパクパクさせながら何度も指をフロアに向けているアクションは異常な空気感をより加速させていた。
ラストにプレイされたTILL YOUR DEATHコンピ収録曲である「カルマ」は去年からプレイされていた今後のweeprayを代表するであろう屈指の一曲だが。これまでに無い混沌を音としてパッケージングしただけで無く、weeprayにこれまで無かった怒りの要素が明確に現れたヘイトフルな一曲。ブルータルさも、困惑も憎しみも全てが何もかもを塗り潰していく様は最早恐怖を通り越して笑いすら浮かんでしまう物。笠原氏がマイクスタンドを投げ捨ててフロアから立ち去った瞬間に、呆然としたまま取り残されてしまった絶望感すらあり、weeprayはどんなに活動がスローペースだろうとライブのブランクがあろうと唯一無二のバンドであるという事をただ思い知るのだ。
・ANCHOR
そしてANCHORの実に7年振りの東京ライブ。2年前の孔鴉で初めてライブを見て衝撃を受けたバンドだが、それ以来に観たANCHORのライブは2年前と比べても更にパワーアップした物であった。
やっている事自体は音源と全く変わらない筈なのだけど、音源で聴かせる繊細な空気感はそのままに、バンドとしてのダイナミックさをより前面に押し出すサウンドに圧倒される。
繊細なツインギターとは対照的にシンプルな事をやっていると思わせておいて、かなり高レベルなグルーブを構築するリズム隊の核の部分がライブではより剥き出しで伝わる。ミドルテンポで緩やかに展開しながらも、そのBPM以上に体感速度を自然と生み出す事って並大抵のバンドじゃとてもじゃないけど出来ない芸当であり、それをごく自然に生み出せるのはANCHORの底力だろう。
来月リリース予定のTILL YIOUR DEATHコンピに収録予定の新曲「物語」はそんなANCHORの更なる進化を打ち出す会心の一曲としてフロアは記憶してであろう。何より本編ラストの「深層」とアンコールでプレイした「抵抗」の2曲がこの日のANCHORを象徴していた。
アプローチは音源と変わらないのに、音源よりもずっと喜怒哀楽といった感情がダイレクトに伝わってくるのは、心が震え心臓が爆発しそうになるカタルシスに包まれた。繊細で美しい音の奥底に隠された真っ直ぐで不器用な熱さがこのバンドの一番の魅力である事に今更ながら気付かされてしまった。
次回の東京でのライブはいつになるかは分からないが、ANCHORのライブは新潟まで遠征してでも一度は体感する価値は間違いなくある。このバンドは新潟の一ローカルハードコアバンドで終わらせてはいけないのだ。間違いなく新潟が生み出した日本が世界に誇るべき国宝級のバンドなのだから!!
全8バンドによる様々な死覚が目の前で繰り広げられた一夜はANCHORの圧巻のライブにより幕を閉じ、終演後はANCHORの物販が飛ぶように売れていたのもまた印象的であった。
決して都心から近いとは言えない(僕としてはそんなに遠くも無いって気もするけど)国分寺という地をオリジナリティしか無い8バンドの殺り合いによって生まれた確かな磁場。この日のモルガーナにはバンドだけで無く、来ていたお客も含めて幸福なグルーブが確かに生まれていた。今はその幸福感を少しでも多くの人に分けてあげたい気持ちで一杯だ。
ANCHOR改めてアルバムリリースおめでとうございます。そして最高のライブを見せてくれたこの日の出演バンドに大きな感謝と尊敬の念をここに記す。